更年期のつらい症状を根本から和らげる、エストロゲンを補充する治療法です。国内外のガイドラインでも有効性が認められており、当院では患者様一人ひとりの状態に合わせた処方を行っています。
更年期障害とは
更年期とは、卵巣機能が低下し始める閉経前後の約10年間(閉経前後5年ずつ)を指します。日本人女性の平均閉経年齢は50.5歳で、正常範囲は45〜55歳とされています。 この時期にエストロゲン(女性ホルモン)が急激に低下することで、自律神経のバランスが乱れ、さまざまな不調が現れます。これを「更年期障害」と呼びます。
- 血管運動神経症状
- ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)・発汗・動悸など。HRTで約75%の症状軽減が報告されています。
- 精神・神経症状
- イライラ・不安・抑うつ・不眠・集中力の低下・記憶力の低下など。
- 身体症状
- 肩こり・関節痛・腰痛・疲労感・皮膚の乾燥・頻尿・性交痛・膣の乾燥感など。
HRTの効果・有用性
ホルモン補充療法は、複数の臨床試験・メタ解析によって有効性が確認されています。治療開始から4週間前後で約70%の方に明らかな改善が認められています。
| 症状・疾患 | 有用性 |
|---|---|
| ほてり・のぼせ(血管運動神経症状) | A(有用性が極めて高い) |
| 萎縮性腟炎・性交痛の治療 | A(有用性が極めて高い) |
| 骨粗しょう症の予防・治療 | A(有用性が極めて高い) |
| 更年期の抑うつ症状 | B(有用性が高い) |
| 皮膚萎縮の予防 | B(有用性が高い) |
| 脂質異常症の改善 | B(有用性が高い) |
| その他の更年期症状全般 | C(有用性がある) |
| 動脈硬化症の予防 | C(有用性がある) |
| 尿失禁の治療(全身投与) | D(有用性の根拠がない) |
- 日本産科婦人科学会のガイドラインに基づくグレード分類です。
投与方法・製剤の種類
HRTには経口(飲み薬)と経皮(貼り薬・塗り薬)の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。患者様の症状・ライフスタイル・リスク因子に合わせて最適な方法をご提案します。
- 経口投与/飲み薬(錠剤)
- 毎日服用するタイプ。ジュリナ・ウェルナーラ・プレマリンなど。手軽に始めやすいのが特徴です。
- 経皮投与/貼り薬・塗り薬
- 皮膚から吸収するタイプ。エストラーナ(パッチ)、ル・エストロゲル・ディビゲル(ゲル)など。肝臓への負担が少なく、血栓リスクが低いのが特徴です。
子宮がある方は、子宮内膜の増殖を防ぐために黄体ホルモン(プロゲスチン)を併用します。子宮摘出後の方はエストロゲン単独投与が可能です。
経皮製剤は肝臓を通過しないため(初回肝通過効果がない)、静脈血栓症のリスクが経口製剤より低く、中性脂肪への影響も少ないことが報告されています。
長期使用による主な効果
- 骨・関節
- 骨粗しょう症の予防
60歳未満での開始では骨折リスクが約55%減少するという報告があります。関節・四肢痛の改善効果も認められています。 - 皮膚・美容
- 肌のハリ・うるおい
閉経後は年2%ずつコラーゲンが減少しますが、HRTにより皮膚のコラーゲン量増加・きめ細やかさの改善効果が報告されています。 - 泌尿器
- 膣・泌尿器症状の改善
膣の乾燥感・性交痛の改善に高い有用性が認められています。反復性尿路感染症の予防には経腟投与が有効です。 - 代謝
- 脂質・糖代謝の改善
LDL(悪玉)コレステロールの低下、インスリン抵抗性の改善、糖尿病の新規発症抑制効果が報告されています。
HRTを受けられない方(禁忌)
以下に該当する方はHRTを受けられません
- 乳がん(現在または既往)
- 子宮内膜がん・低悪性度子宮内膜間質肉腫
- 原因不明の不正性器出血
- 妊娠が疑われる場合
- 急性血栓性静脈炎または血栓塞栓症(現在または既往)
- 心筋梗塞・冠動脈動脈硬化性病変の既往
- 脳卒中の既往
- 重症の高トリグリセリド血症
- コントロール不良な糖尿病・高血圧
- 重度の活動性肝疾患
- 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症の既往
- 片頭痛・てんかん・急性ポルフィリン症・SLE
慎重に対応が必要な方
以下に該当する場合は医師と十分に相談します
- 子宮内膜がん・卵巣がんの既往
- 肥満
- 60歳以上または閉経後10年以上での新規投与
- 血栓症のリスクがある方
- 冠攣縮および微小血管狭心症の既往
- 慢性肝疾患
- 胆囊炎・胆石症の既往
乳がんリスクについて
HRTと乳がんリスクについては、国際的な研究で継続的に検討されています。
1992〜2018年の58研究のメタ解析では以下が報告されています。
- エストロゲン+黄体ホルモン併用
-
有子宮の方(併用療法)
1〜4年でRR約1.60、5〜14年でRR約2.08と、期間が長いほどリスクが上昇する傾向があります。 - エストロゲン単独
-
子宮摘出後の方(単独療法)
1〜4年でRR約1.17、5〜14年でRR約1.33と、併用療法に比べてリスクの上昇は少ないとされています。- 定期的な乳房検査(マンモグラフィ等)を行いながら、リスクとベネフィットを医師と十分に相談の上で継続するかどうかを判断します。
定期検査・フォローアップ
HRTは開始後も定期的なモニタリングが必要です。
- 受診ごと
- 症状の変化・不正出血・乳房の張り・血栓症の有無などを確認します。
- 年1〜2回
- 血圧・体重測定、血液検査(肝機能・脂質・血糖)、HRT継続の可否を検討します。
- 年1回
- 内診・経腟超音波検査、子宮頸部細胞診、子宮内膜がん検診、乳房検査(マンモグラフィまたは超音波)を行います。
- HRT終了後
- 中止後5年間は引き続き婦人科がん検診・乳房検査を受けることをお勧めします。
HRTが難しい方への代替療法
禁忌や希望により HRT が選択できない場合、以下の治療も組み合わせながら対応します。
- 漢方療法
- 当帰芍薬散(虚証・色白やせ型)・桂枝茯苓丸(実証・がっしり型)・加味逍遥散(虚証〜中間・精神症状・めまい)などを症状・体質に合わせて処方します。
- プラセンタ注射(メルスモン)
- ヒト胎盤エキスを用いた自費注射。更年期症状の緩和・美肌・疲労回復などに効果が報告されています。HRTと組み合わせることも可能です。
よくあるご質問
- Q. HRTはいつまで続けますか?
A. 症状がある限り継続できます。定期検査を行いながら、年1〜2回リスクとベネフィットを評価して継続の可否を判断します。
- Q.飲み薬と貼り薬、どちらが良いですか?
A. 血栓症リスクがある方や肝機能が気になる方には経皮製剤が推奨されます。生活スタイルや希望に合わせて一緒に選びましょう。
- Q.効果はいつから実感できますか?
A. ほてり・発汗などの血管運動神経症状は早い方で2〜4週間、多くの方は4週間前後で改善を実感します。
- Q.保険は使えますか?
A. 更年期障害の診断に基づく治療は保険適用となる場合があります。詳しくは診察時にご相談ください。
